空翔る翼 -Sora×Tsubasa-

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after "Unlimited Blade Works" -Brilliant Years-

―静かに剣を構える―

―対峙するは、赤い外套を纏った騎士―

―もう何度目かわからない―

―しかし、それでも勝利は無く―

―終わりはまた、無数の剣に貫かれ―





「士郎!士郎、ねぇ、ちょっと士郎!!」

どこか遠くから遠坂の声が聞こえる。

「士郎!聞こえてないの? ……仕方ないか。」

バシッと頬を叩く感触。……頬を叩く感触?

「って ……何すんだこのあくま!」

「あ、起きた?良かった。」

頬を思いっきり叩いた張本人には反省も見えず、しかし、その瞳には深い心配の色が浮かんでいた。

「あんたまたうなされてたわよ。」

そう言われては文句も言えない。彼女は自分のことを心配してくれたのだから。

「……そうか。ありがとう、遠坂。」

だからそれだけを言葉に乗せる。

「また悪い夢?」

「……ああ。」

正確には夢ではないのだが、遠坂には黙っている。

もっとも、遠坂が気付かないはずは無いので、知らないふりをしているだけだろう。

あれは一月ほど前のことだから、聖杯戦争が終わって一週間ほど経った時だったろうか?

俺は、時々自分の心象世界に意識が飛ぶようになった。

気が付けば、あの剣の丘に自分が立っている。

そして、そこには消えたはずの『あいつ』もいた。

といっても、互いに会話はなく、いつも必ず戦いあう。

そこに他の意思はない。きっとそれは本能なのだろう。

―そして、最後には必ず、俺が奴の剣に貫かれる。

何故こんなものを見るようになったのだろう?あいつに対して負い目がある訳じゃない。

俺は、決して間違ってはいなかったと信じている。

ただ、あいつと戦った時のことが―

あいつがあの時叫んだ言葉が―

今でも脳に焼き付いてる。

―だから

―俺もいつかはああなるのかと、ただ、それだけを恐れている―



「……士郎?」

ふと気付くと、遠坂が心配そうに顔を覗き込んでいた。

「ああ、すまない、凛。少し疲れているようだ。」

と、遠坂が幽霊でも見たような顔をした。

「……? どうした、凛?」

「あんた…その言葉遣い…」

言われて気づいた。これではまるであいつじゃないか。
そう気付いたとたん、急に気分が悪くなって床に突っ伏した。

そして、意識はまたゆっくりと薄れていった。

―ああ、また凛に迷惑をかけるな。―と、そんなことだけ頭に残して。





「衛宮士郎。」

声をかけられて、意識が戻った。

いや、俺が『ここ』にいる以上、意識は内面に潜っているのだろう。

だが、それ以上に、今は、目の前にいる男から声がかかったことに驚きを覚えた。

「驚いたな。お前から俺に話しかけるなんて。」

「これまでは話す必要がなかっただけだ。そもそも、私はお前の心象世界に存在するお前自身の幻想にすぎん。 いうなればここでの私の行動も全てお前が無意識のうちに決めたものだということだ。」

久しぶりに話す男は、やはり変わらず嫌味な奴だった。

「……何を悩んでいる?」

アーチャーが俺に以前と寸分違わない声で、俺に語りかける。

「お前の抱いた理想は、決して、間違いではないと言ったな?」

「では、何を迷う? 何を恐れる?」

「もとより、お前には迷いなど必要ない。お前にあるのは、歪な理想、ただそれだけなのだから。」

「故に、今の貴様は衛宮士郎ですらない。ただの落ちこぼれた一人の男だ。」

「覚えておけ、理想をその手に抱いて尚走り続けることが出来ないのなら、私がお前を殺す。」

―お前の抱いた理想はそんなに軽い物ではないだろう? アーチャーは言外にそう言っているのだ。

「……そう、だったな。」

俺は剣の丘から剣を引き抜き、

「そのために、お前はここに来たのか?」

俺の目を覚ますために? 赤の騎士に言外にそう問う。

「さてな。これはお前自身の幻想だ。私にわかることではあるまい?」

赤の騎士は皮肉げに笑って。

―そして、二人のエミヤは戦い始めた。





「……士郎?」

遠くで心配そうな声がする。

「遠坂か?」

「良かった。気が付いたのね。あなたまた意識を失ってたのよ。」

そう言われて、さっきまでの光景を思い出し、ふと穏やかな気持ちになった。

「どうしたの?」

遠坂が怪訝そうな顔をする。意識を失っていたと言われて急に微笑を浮かべたのだから当然か。

「あいつに会ったよ。」

「――!」

それだけで察したのか、遠坂はそれ以上なにも言わなかった。



あの後、俺とアーチャーは戦って、そして、いつかと同じように、俺があいつを貫いた。

そして、あいつは最後に満足そうに笑って、

「それでいい。遠坂がいれば大丈夫。俺はちゃんとやっていける。そうだろう?」

そう、告げた。

「俺は、あの戦いで答えを得た。」

「だから、お前も―

―俺たちの理想は決して間違いなんかじゃないって、そう信じて」

そこまで言って、アーチャーは消えていった。



あいつが本当に幻想だったのかは、もうわからない。

でも、あいつが最後に俺に何を言おうとしたか、わかるから。

だから、せめて、未来の自分にも、誇れるようにと。

俺は、また理想に向かって走り続けようと思う。

俺の傍らで、俺のことを支えてくれる、優しい少女と一緒に。





―体は剣で出来ている―

―血潮は鉄で心は硝子―

―幾たびの戦場を越えて不敗―

―ただ一度の敗走はなく―

―ただ一度の勝利もなし―

―担い手は救い手と二人―

―剣の丘で鉄を鍛つ―

―ならば、我が生涯に意味は要らず―

―この体は、無限の剣で出来ていた―

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